研究成果の概要:授業の内容・形態に応じたクリッカーの効果的な使用方法の研究
龍谷大学大学教育開発センター2011年度自己応募研究プロジェクト
樋口三郎(理工学部)・安田智哉(理工学部教務課)
クリッカーとは, 大教室の授業で問題・アンケートへの学生の回答を即時に集計しスクリーンに表示する無線端末である.瀬田学舎では2011年度にSocratec Nano Type-Tが1セット(端末300台コントローラ1台)導入され,2012年度には情報メディアセンターの貸出用ノートPCまたは講義室設置PCを利用することで瀬田学舎内の任意の場所で使用可能になる予定である. この機種では, 教員の指示により学生は匿名または学籍番号明示で多肢選択を行える.
本研究では, 導入された機種のクリッカー(Socratec Nano Type-T)を念頭に,効果的な使用方法を調査・研究した. クリッカーは単純な装置であり, 学生・教員にとって基本的な操作は容易であるが, 授業内でどのように利用するのが効果的かは自明ではない. 研究計画時に想定したよりも2011年度の学内でのクリッカー使用率が低くとどまったため, 使用事例の収集に加え, Webや文献からの情報収集をあわせて行った. 学問分野に応じた効果的な使用方法を検討することよりも, 多くの使用方法を収集することに重点をおいた.
使用方法を, (1)授業進行の質問(2)授業内容の質問に分け, さらに(2)を,(2a)正解のない質問(2b)正解のある質問に分類して述べる.
ケース(1)の例として, 単純な出席チェックがある. 携帯電話による出席確認と比較して, 通信料金なし, 遠隔からの代理登録なしに行える. また希望調査やグループ分けにも使える.
また, 理解度チェックによる進度調節のために「わかりましたか」「難しかったですか」などと直接的に問うことができる. 文献によれば「疑問を持ったのは自分だけではない」と感じてこの調査の後に質問が出やすくなるケースがあるという. さらに, 複数の問に連続で答える機能を利用すると, 学期末授業アンケート程度のものはクリッカーで実施できる可能性がある. 集計が容易であることに加え, その場でスクリーンに表示して, それに基づいて授業を進めることができる.
ケース(2a)としては, 学生の意見(「消費税率を上げるべきか?」)や, 状況(「棄権したことはあるか?」)を知ってその後の議論や説明に反映させる方法がある. このような問においては, クリッカーの匿名性が有効である. また, 学生にサイコロなどを用いた確率的実験を行わせて, 確率・統計を学ぶような授業も考えられる.
ケース(2b)はいわばテストだが, 授業の進度を調節するための理解度チェック, 解説や議論の題材とする'クイズ', 成績評価のための試験までが含まれる.しかし, すぐに結果が集計・表示するクリッカーの特徴を生かした使用法は,前2者だろう. 一方, 多肢選択の問題しか使えないという制限に留意する必要がある.
極端な授業方法として, もとは物理教育の分野で提案されたPeer Instruction がある. 学生が教科書を事前に自習してくることを前提として,授業時間内には, 発問, クリッカーによる解答と集計, 学生間の相互説得の議論, クリッカーによる再度の解答と集計を繰り返すというものである. この方法はクリッカーの普及以前に提案されたものであり, 学生間の議論がもっとも重要であるが, その前に学生が自分の意見を表明する機会を設ける上でクリッカーは有用と考えられる. このような授業を行うためには, 授業内容の本質に迫る良質な多肢選択問題が大量に必要である. 物理学を初めとするいくつかの学問分野では, そのようなアイテムバンクを構築する試みが行われており, 高い評価を得ている問題セットもある.
直接的な使用方法(1),(2)であっても, 最終的な目的を, 学生が集中力を維持することを助ける, 学生が主体的に授業に参加する機会を作る, などにおくことも考えられる. 一般に, 熟達した学習者であっても, 15分以上一方的に話を聞くと集中力が低下することが報告されている. これを防ぐために, 一定周期で学生に反応できる機会を作ることが考えられる.
人文・社会科学分野の大人数講義で(2a)の使い方をするのがもっとも一般的かと思っていたが, これまでによく開発されている使用法は自然科学分野の大人数講義でのPeer Instructionなど(2b)の使い方であるようである.
本研究の成果は http://www.a.math.ryukoku.ac.jp/~hig/eproj/clicker で公開している. 今後クリッカーを使用される方のご希望に応じて必要な情報を提供したい.